~回復から拡大へ、変わる旅のかたちと求められる受け入れ対応~
2025年も早くも折り返し地点に差し掛かりました。今年前半の訪日インバウンド市場は、まさに“歴史的な盛り上がり”を見せています。パンデミック以降の回復期を経て、いよいよ本格的な拡大フェーズに突入した今、日本を訪れる外国人旅行者の姿は変化しつつあります。
この記事では、2025年前半の訪日インバウンド市場の動向を振り返りながら、注目すべきトレンドや背景、そして今後の展望について、マーケティング・観光戦略の観点から読み解きます。
訪日外国人、過去最高ペースで増加中
2025年前半(1〜6月)の訪日外国人数は2,150万人を突破し、過去最速で2000万人を突破しました。観光庁が発表した速報値によれば、月ごとの推移でも多くの月で前年比+30〜50%を記録し、各地の空港・観光地は連日活況を呈しています。
主な背景としては以下が挙げられます:
- 円安の継続的な進行
- 航空路線の回復(特にアジア圏との直行便増便)
- 各国での訪日キャンペーンの強化
- ビザ要件の緩和や出入国のスムーズ化
特に、韓国・台湾・中国本土・香港といった近隣アジア諸国からの訪問が回復・拡大しており、これに加えて欧米や東南アジアからの個人旅行客の比率も上昇しています。
円安と物価ギャップが「日本旅行のお得感」を演出
引き続き推移する円安相場の中、訪日旅行のコストパフォーマンスは世界的にも際立っています。
「日本は安くて、きれいで、安全で、サービスが良い」という評価は広く浸透しており、特にSNSや口コミサイトでは「ヨーロッパやアメリカに比べて、同じ予算で何倍も楽しめる」という声が多く見られました。
アジアの若年層にとっても、「憧れの日本旅行」が今なら実現可能という経済的な魅力が後押しとなっており、特に食・ショッピング・カルチャーに高い関心が寄せられています。
FIT(個人旅行)化が加速:多様化する旅のかたち
団体旅行から個人旅行への移行はすでにトレンドとして定着していますが、2025年はさらにその質が進化しています。Z世代・ミレニアル世代を中心に、「自分だけの体験」を求める旅行スタイルが主流化しつつあります。
代表的な傾向としては:
- 地方での「自然体験・食体験(農泊・温泉・郷土料理など)」へのニーズの高まり
- アニメ・ゲーム・音楽の聖地巡礼やライブイベント参加などの“目的型旅行”の増加
- 一人旅・カップル旅・女子旅など、小規模で柔軟な移動スタイルの人気
これらの動向は、従来のパッケージ型商品では対応しきれないニーズを生み出しており、地域観光資源の「編集力」が問われる段階に来ています。
SNS主導の旅行計画:情報源は“プロモーション”から“共感”へ
訪日前の情報収集手段としては、SNS・動画コンテンツが圧倒的に主流となっています。とくに、
- InstagramやFacebook(韓国・タイ・インドネシアなど)
- RED(小紅書:中国)
- YouTubeやInstagram(欧米圏)
など、ユーザーの実体験や感情が見えるプラットフォームからの情報に大きな影響を受けています。
企業や自治体のマーケティングも、「一方的な訴求」から「共感を呼ぶコンテンツ」「旅行者による拡散型プロモーション」へとシフト。インフルエンサーとのタイアップ投稿やUGC活用が重要性を増しています。
人気エリアの分散化:新たな旅行先への注目
東京・大阪・京都といった主要都市への集中は続くものの、混雑回避や新しい体験を求めて、“第三の都市”やローカル観光地への分散化が進んでいます。
2025年前半に注目されたエリア例:
- 北陸(特に金沢・富山・福井):北陸新幹線の延伸効果で欧米人旅行者が急増
- 九州(福岡・熊本・別府):グルメ・温泉・自然体験の魅力で東南アジア客が急増
- 飛騨高山・松本・岡山・四国など:アニメや歴史に興味を持つ欧米系FITが多数来訪
こうした都市の台頭は、インフラ整備やローカル発信、インバウンド対応の強化が実を結んだ成果とも言えるでしょう。
今後の展望とマーケティングの課題
2025年後半に向けては、以下の動きが予想されます。
- 地方観光地での宿泊・交通のキャパシティ不足への対応が急務
- オーバーツーリズム対策としての分散誘導や観光マナー啓発
- 生成AIやARなどを活用した次世代型観光プロモーションの導入
- 「旅ナカ」「旅アト」での消費をどう最大化するかという購買導線の設計
企業・自治体・観光事業者に求められるのは、量的拡大に対応するだけでなく、質の高い体験をどう届けるかという視点です。訪日旅行者の“記憶に残る旅”を支える仕掛け作りが、次なる競争力となります。
2025年前半の訪日インバウンド市場は、「回復」から「新たな成長」へと明確にシフトしています。旅行者の層は広がり、目的も多様化し、情報発信と消費行動の関係性はより複雑に。こうした変化の中で、企業や自治体にとっては時代に合ったアプローチの再構築が求められています。